はじめに
マンション管理組合の運営に大きな影響を与える令和7年マンション関係法(区分所有法等)の改正を踏まえ、令和7年10月にマンション標準管理規約が改正されました。
この改正は、超高齢化社会における所在不明区分所有者への対応、マンションの再生促進、管理組合のガバナンス強化、社会情勢の変化(防災や喫煙ルールなど)に対応するための重要な見直しを含んでいます。
特に、区分所有法に抵触する恐れがあるため、標準管理規約に準拠した管理規約の変更が必須となる項目も含まれており、管理組合は速やかな対応が求められます。
今回は、今回の改正における主要な変更点を、「総会・決議のルール」「財産管理・再生」「ガバナンス強化」の3つのテーマに分けて詳しく解説します。
総会・決議のルール:多数決要件の緩和と定足数の見直し
総会運営の効率化と、マンション再生を円滑に進めるため、決議要件と手続きに大きな変更が加えられました。
① 多数決要件の大幅な緩和
• 特別決議の変更: これまで厳格だった「特別決議」についても、総会の出席者による多数決を可能とするよう見直されました。
• 共用部分の変更(バリアフリー化など): 決議の多数決要件が3/4から2/3に緩和されました。
• マンション再生(建替え・更新・売却・除却): 客観的な事由が認められる場合の再生に係る決議の多数決要件が4/5から3/4に緩和されました。また、新たな再生手法である更新・売却・除却を行う場合の多数決要件が規定されました。
② 総会定足数の見直し
総会の基本的な定足数が、議決権総数の「半数以上」から「過半数」に見直されました。 また、特別決議を行う場合の総会の定足数(区分所有者数及び議決権の各「過半数」)も規定されました。
③ 総会招集時の通知事項と期間の変更
総会招集時の通知事項として、全ての議案について「議案の要領」を示すよう規定が見直されました。緊急に総会を招集する際の通知の発送期間についても、最短期間が「5日間」から「1週間」に変更されています。
財産管理・再生:修繕積立金の使途の明確化と不明者への対応
修繕積立金の柔軟な運用を可能にするとともに、所在不明者や管理不全な専有部分への対応手続きが新設されました。
① 修繕積立金の使途の明確化
修繕積立金をより多岐にわたって活用できるよう、使途が明確化されました。
• 「改良」工事への充当: 建物及び設備の性能・機能を新築時の水準から向上させる「改良」工事についても、修繕積立金を充当できる旨が明確化されました。
• 再生手法への対応: 新たなマンション再生手法(更新・売却・取壊し)の調査・設計段階の支出についても、修繕積立金を充当できる旨が規定されました。
• 管理・運用費用: 修繕積立金の管理・運用に修繕積立金を充当できる旨が明確化されました。
② 所在等不明区分所有者への対応手続きの新設
高齢化等により所在が不明な区分所有者が増加している背景を踏まえ、管理組合が活用できる法的手続きが創設されました。
• 総会決議からの除外: 所在等不明区分所有者を総会決議等から除外する制度を管理組合として活用する際の手続き規定が創設されました。
• 財産管理制度の活用: 「所在等不明専有部分管理制度」や「管理不全専有部分管理制度」を管理組合として活用する際の手続き規定等が創設されました。
• 国内管理人制度: 区分所有者が**「国内管理人」**制度を活用する際の手続き規定等も創設されました(コメントには国内管理人の選任を義務付ける場合の規定例も記載されています)。
ガバナンス強化:役員・理事長の権限と責務の明確化
管理組合の運営体制を強化し、損害賠償請求等の権利行使を円滑にするための規定が新設・見直されました。
① 損害賠償請求権等の代理行使(理事長権限)
理事長が、共用部分等に係る区分所有者及び区分所有者であった者の損害賠償請求権等の代理行使をできる旨を明示する規定が創設されました。この権利行使は理事長による一元的な行使のみに限定されます。
② 区分所有者の責務の明確化
区分所有法において「区分所有者の責務」が規定されたことに合わせ、標準管理規約における規定も見直されました。
③ 役員等の本人確認と職務代行者
管理組合財産を狙った、区分所有者ではない者による役員・専門委員へのなりすまし事案の発生を踏まえ、管理組合役員、専門委員就任時の本人確認についてコメントが追加されました。 また、理事が出席できない場合に理事本人に代わって理事会に出席させることのできる「職務代行者」を定める場合の考え方及び規定例がコメントに追加されています。
社会情勢等に対応したその他の見直し
現代社会のニーズや安全管理に対応するための細かなルールも追加されました。
• 防災関係業務と防火管理者: 管理組合が取り組むべき防災関係業務の内容がコメントに追加され、消防法上設置が求められている防火管理者に関する規定例が新設されました。
• 喫煙に関するルール: 専有部分等での喫煙を巡るトラブルに対応するため、喫煙に関するルールを定める際の考え方がコメントに追加されました。
• 専有部分の保存行為実施の請求: 共用部分の管理に必要な範囲内の「立入り」だけでなく、「保存行為」の実施請求についても明確化されました。
まとめ
令和7年改正は、マンションの老朽化対策、所有者不明問題、そして管理組合のガバナンス強化を強力に推進する内容となっています。
特に区分所有法の改正に直接関わる項目については、管理規約の変更が必須となる場合があります。管理組合は、今回の標準管理規約の改正内容を踏まえ、管理規約の見直しと、総会での承認手続きを速やかに進めることが極めて重要です。
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